あれ野往く水辺にごりて毒蛾群れ鱗翅学者の夜は賑やか
我にもし蚯蚓集めの甲斐あらば娘の指へそれを結わえん
気のぬけたサイダーの壜もて余しさぐる左手浴衣の君の
アベックが睦みささやく公園の繫みの中にそを聴きにゆく
鼻先で揺れる寝ぐせに君香る手櫛とおして朝が香る
トンカツがやたらと旨い休みの日われとわが身の疲労を知る
銭湯で春場所眺め待ち飽きて手ぬぐい透かして打つLINE
靴ひもで結わえられたるわが身体今日もまた仕事が始まる
骨壺の底へかさねし椎骨の粗熱こもるる祖母の生きざま
徳用のクリーム重ねしくるぶしの割れた肌理が田んぼに似ており
かりんとうみたいなうんこした犬がいてそんな世界が続いてく
父のない寂しさなぞ知りそめて濃いめの泡盛よるの献杯
徳用の湿布貼るべく今日もまた悪戦苦闘の独り身か
おにぎりに梅干し2個は多すぎたラップに包んだ種を見つめ
銭湯の壊れたロッカー戸がなくてなんだか枯れ木のうろに似る
職場には吸える酸素がない深呼吸して息とめ潜ろう
平日のラブホ街を散歩するぼろスニーカーの足音ひとつ
コーヒーは僕を動かす熱き泥胃の腑めぐれば朝が始まる
ケンタッキーを腑分けしろリブ齧りし部活帰りの蘭学者
生活にひたひたと呑まれるかかっぱ巻き齧れば胡瓜にがし