ぶんかじ問1

第一章 自分の文のひびき 練習問題① 文はうきうきと

問1:一段落~一ページで、声に出して読むための語りの文を書いてみよう。その際、オノマトペ、頭韻、繰り返し表現、リズムの効果、造語や自作の名称、方言など、ひびきとして効果があるものは何でも好きに使っていい ──ただし脚韻や韻律は使用不可。

 綿羊大兄ってのはひらたくいうと途方もなくエラいひつじの兄貴分で、なんたって名前からして大きな兄なんだからそんじょそこらのビッグブラザーなんか目じゃない。牧場の柵をかたっぱしから伐り倒して良さげなカウチをこさえると、自慢の毛で編んだメリノウールの織物を敷いて、どっかと腰をおろしてとうもろこしの煙管なんぞをスパスパふかしおつに澄ましている。

 なんでそんなに偉そうなんだ、ひつじはひつじらしくするもんさね、とみちゆく農夫だの床屋だのが陰口を叩くけれど、綿羊大兄はてんでひるまない。にんげんどもの他愛もない悪口なんぞ、彼らひつじんるいにとってみれば些事も些事、まるでお話になんかならないのだ。

 さてもさても愚かなるにんげんたちは、おれたちの毛だの乳だのを根こそぎ毟りとるくせして、自分たちの毛だの乳だのは一本一滴たりともおれたちには寄越しはしない。等価交換もへったくれもあるものか、あの欲の皮が突っ張った我利我利亡者どもめが!

 下等なるにんげんどもよ、媚びよへつらえよ!

 われらひつじを讃えよ!

 われらひつじを讃えるべくして讃えよ!

 綿羊大兄が痰と気炎と煙を吐くたんびに、若いひつじの舎弟たちはめえめえと拍手喝采、偶蹄をぱちんぱちんとうち鳴らしては、かれらの偉大なる兄貴分を上から下まで褒めそやした。実際のところにんげんとひつじんるい、家畜としてどちらがすぐれているかといえば、それはもうひつじんるいの圧勝というもので、だからこそ貧乏牧場の経営は彼らを中心にまわっているのだ。

 夜空に浮かぶチーズ色をした望月もほら、ひつじんるいの栄華をうたっているではないか。あと三日もすれば、そのまんまるなお月様がかれらの頭上へ落ちてくるとしても、それまではこの世の春を謳歌して満喫してエンジョイして、ねえ、彼らがどんな境遇の生き物だったとしても、肉になるまで毎日をたのしく過ごせるのなら、それって素敵じゃありませんか?